日本でも、ウルグアイラウンドによる農産・畜産物の輸入増加による打撃緩和策の意味もあり、この数年、農水省は「中山間地総合対策」を実施し始めている。しかし、それは直接的所得補償ではなく、農協、土地改良区、第三セクターなどを通じた、相も変わらぬ圃場区画整理や排水溝、あるいはハコモノ建設など公共事業中心の政策である。平地でやってきた土地改良事業を無理やり中山間地に持ち込み、農民によけいな自己負担を押しつけ、美しい田畑や周辺の自然をコンクリートで固めて破壊している、と批判されても当然の実態だ。
これでは、農水省が唱え始めているグリーン・ツーリズムなど成り立だないだろう。欧州の所得政策とは縁もゆかりもないことも確かである。先にみたように、農水省は土地改良費として膨大な予算をもっている。土地改良事業はその主要な役目を終えたといわれる今日、その一部でも「マイナスの所得税」に振り向ければ、欧州諸国なみの対策が可能であろう。それがポスト公共事業時代のオルタナティブの重要な一つでもある。
そしてあたりを見回してみると、明日へのオルタナテーフの実践が確実にふえていることがわかる。そうした自治体の実験をのぞいてみょう。東京都は一九九七年から、都内への車の流入規制も視野にトれながら、道路を走る車の量そのものを規制する新たな交通対策の検討を始める。いくら道路をつくっても一向に車の渋滞は解消されないし、大気汚染や騒音公害は悪化しこそすれ、改善の見込みはない。一方で、都心を一周する都営地下鉄19号線環状部が二〇〇〇年には開業する予定だし、ほかの路線も順次延長されていく。それならば、車から地下鉄など大量交通機関へ乗り換えてもらおうという、発想の転換だ。
都心の周辺に駐車場を設けてその先は、地下鉄、電車、バスなどへ乗り換える「パークーアンドーライド」や、ナンバーープレートによって今日は奇数の車、明日は偶数の車だけと車の都心への乗り入れそのものを規制する方法もある。トラックは夜間など一定の時間帯だけに通行を認めるのも有効だろう。