2012年9月4日火曜日

分析家の人間関係

あるとき、文化人類学者の中根千枝さんからこんなことを言われました。「河合さんは忙しい忙しいと言っても、五十分間の間はちゃんと人と会って、それ以外になにからも邪魔されない時間がもてるからいいですね」

考えてみれば、たとえ一日に五十分間にしろ、私たちのように、人間のもっとも深いところで話しあう機会をもっている人はめったにいないでしょう。

普通の人間関係といえば、どうでもいい雑談をするとか、酒を飲みながら他人の噂話をするとか、ほとんどが表面的なつきあいです。

しかし、私たちがクライエントと面接している間は、途中で電話がかかってくることもありません。一人の人間対人間として、通常とはまったく違う世界に入っているわけですから、普通の人の忙しさとはまったく違います。むしろ、世間的な忙しさとは無縁の世界で、しかも、非常に濃密な充実した時間です。

私たちは、一週間に何時間かはそういう世界に入っているわけですし、私たちの場合はそれが職業として成り立っているわけですから、自分でもすごく恵まれた境遇だと思いますし、中根さんに指摘されてからは、ますますこの仕事をしていてよかったと思います。