2013年3月30日土曜日

超広角、超望遠で視覚の探検

その中から厳選した一枚を大きく引き伸ばしてアルバムに貼っておけば、上達ぶりも一目瞭然。残りのコマは、捨てる前に白い壁や襖にプロジェクターで映し、応接間個展をやってみたらいかがでしょう。仲間うちの甘い合評会より、家族の歯に衣着せぬ批評のほうが勉強になるかもしれませんよ。最近は一般の人の使用も増えてきて、各地で開かれる写真コンテストでも、年々、ダイレクトプリントによる応募作品が増えてきているとのことです。

超ワイドレンズ、マイクロレンズ、超望遠レンズも、一度は体験しておきたいものです。日常的な遠近感とは異質の、視覚の探検とでもいいましょうか、20ミリ前後の超広角レンズをつけてファインダーをのぞくと、ちょっとしたデフォルメ感覚が味わえ、いままで知らなかった世界が見えてきます。これは、遠近感が極端に誇張されるためです。実際は狭い部屋がとてつもなく広く見えたりするので、新聞写真では誤解を招かないよう、わざわざ「超広角レンズで撮影」と注意書きを入れることもあるほどです。

本でも週刊誌でもけっこうですから、その直角になった角の部分を鼻の上、両目の間に水平にして当ててみてください。この角の内側の九〇度の範囲が、20ミリレンズの画角(九四度)とほぼ同じです。これなら自分の目のほうがよっぽど広く見える、と思うかもしれませんが、それは目玉を動かしているからです。片目をつぶって、九〇度の範囲をよく見回してみてください。九〇度が意外なほど広い範囲をカバーしていることに気づくはずです。

ところで、カメラのレンズは焦点が平面に結ばれなければ役目を果たしません。二四×三六ミリの決められたフィルム面積の中に広い範囲を取り込むわけですから、当然、像は見た目よりも小さく写ります。実際に一眼レフカメラに20ミリレンズをつけてのぞいてみるとよく分かりますが、目の前をIメートル離れると左右ニメートル、ニメートル離れると左右四メートルと、倍々で被写体との距離が広がって写ります。ちなみに、人間の目と比較的遠近感が近いといわれる50ミリの標準レンズの画角は四六度で、20ミリレンズの約半分です。

この特性を活かして、強調したいものを大きく画面に取り込んで迫力を出したり、狭い場所で広い範囲を写したいときに利用します。しかし、実際に肉眼で見る遠近感とはかなり違った画像に仕上がるので、超広角レンズで写真を撮った場合は、はっきりとしたデータを示すことを忘れないようにしたいものです。あるタレントさんと奈良の古いお寺へ行ったときのことです。お堂を囲むようにつくられた庭園の石や老木には幾種類もの苔がつき、五百年の時を経た重厚な雰囲気をかもし出していました。

回廊式の縁側をゆっくり歩きながら見物をしていると、タレントさんがふと立ち止まって、「この庭はどこにあるのですか」と、案内のお坊さんにパンフレットの写真を指差してたずねています。「ここです」との答えに目の前を見ると、奥行き五メートルくらいの小さな庭です。これには、さすがにタレントさんも二の句がつげなかったようです。パンフレットに載っていたのは超広角レンズで撮ったもので、いかにも広大な庭に見えたのです。