2014年4月17日木曜日

国際金融危機の脅威

国際資本移動において枢要な役割を演じているユーロ市場では、原則として各種の規制が存在しない。また、当局によるユーロ銀行の監督も母国の銀行に対する監督に比べればそれほど厳格なものではないことが多い。この状況下では、仮に何らかの事態が発生し、ユーロ銀行が破綻に瀕した場合、インターパンク市場を通じて次々と他行に波及するリスクが無視しえなくなる。実際、ユーロ市場ではこれまで数度にわたって、ユーロ銀行の経営破綻や、ユーロ市場全体が危機に直面するシステミックーリスクを経験してきた。

主要国の金融当局は、こうした国際金融面におげる多くの問題に対応するため、IMF(国際通貨基金)やBIS(国際決済銀行)といった国際機関の場で協議してきた。このなかで、七四年に、主要先進国で構成されているG‐10(当初は主要先進一〇ヵ国で構成されていたが、その後二ヵ国を追加)は、こうした問題への対応に向けて。パーセル委員会(BIS本部がパーセルに置かれていることに因んだ通称)をBISの中に設置した。

同委員会の課題は、実体的に無規制の下で、あまりにも巨大化した市場から生じるさまざまなリスクに対して、これをいかに抑制し管理するかを検討するとともに、仮に金融危機が起こった場合の対応について、主要国間で基本的な合意を取り決めることであった。だが、パーセル委員会が打ち出した処方簾は、実際の金融危機に直面するとほとんど実効を伴わないものであった。そして、いくつかの試行錯誤のなかで辿り着いたのが、九二年三月末(日本は九三年三月末)から正式に適用されている、BIS自己資本比率規制であった。

七四年六月、ドイツの中堅銀行として名が知られていたヘルシュタット銀行が為替投機の失敗を主因に経営危機に陥り、監督当局から業務の認可取消し及び清算を命じられた。これを受けて、ユーロ市場では一気に流動性リスクが高まり、インターパンク取引を中心に重大な状況に陥った。一方、同行は外為市場において大規模な為替取引を行っていたが、同行とドル買い・マルク売りの外為取引を行っていた多数の銀行は、ドルの受取りが困難となり、多大の損失を被るごとになった。

ヘルシュタット銀行の閉鎖は、時間的には、同行からドルを買うために欧州市場でマルクの払込みを済ませた後、ドルの受取りが可能になる米国市場のオープンをみる前に命じられたからである。主要国間における資本取引の巨大化とともに、こうした外国為替取引に付随する決済リスクが絶大なものとなり、システミックーリスクが発生しかねないことが、はからずもヘルシュタット銀行の破綻で明確に認識させられることになった。