2015年8月1日土曜日

三つの構造変化

この当時、自動車などの耐久消費財の需要も増加した。これも一時的な増加にすぎなかったのだが、需要増加を構造的なものと見誤った企業は、生産設備の積極的な拡張を行なった。それが企業収益を長期間にわたって圧迫したのである。これについての詳細は、つぎの文献を参照。野口悠紀雄『バブルの経済学』日本経済新聞社。

それでは、日本経済は、現在いかなる構造変化に直面しているのか?ここでは、とくに重要なものとして、アジア諸国の工業化、新しいネットワーク技術の展開、人口高齢化の三点を指摘したい。構造変化の第一にあげられるのは、一九八〇年代後半以降のアジア諸国に起こった急速な工業化である。短期的にみれば、ここ数年間、アジア諸国は金融危機や通貨危機によって混乱した。ただし、これはどちらかといえば、一時的な現象である。長期的にみれば、アジア諸国は、今後も成長を続けると考えられる。つまり、これは、構造的な変化だ。

アジア地域は、二一世紀に向かう成長センターといわれている。今後の世界経済の焦点がここにあることは、疑いないだろう。めざましいNIESの経済発展 アジア諸国のなかには、NIES、アセアン、中国という、発展段階の異なる三つのグループが含まれる。「NIES」には、韓国、台湾、シンガポール、香港の四つの地域が含まれる。これらの地域は、以前から工業地域ではあったが、その中心は、労働集約的な軽工業だった。

しかし、一九八〇年代に、NIESはハイテク産業や重化学工業に進出した。現在では、この分野で世界をリードする先進的な工業国となっている。たとえば台湾は、世界一のパソコンの生産国だ。NIESの経済発展がいかに著しいかは、さまざまなデータでうかがうことができる。ここでは、つぎの二つのデータをみよう。表は、一人当たり国民所得を比較したものである。これは、国の豊かさや発展段階を示すものとして、しばしば用いられる指標だ。

一九八〇年代までは、シンガポールや香港は、英国よりもかなり低い水準にあった。われわれがもっているイメージは、これに近い。ところが、一九九三年に、シンガポールと香港の一人当たり国民所得は、英国を抜いた。その後も英国との差ぱ開いている。つまり、これは一時的な変化ではなく、構造的な変化である。現在、シンガポールは、一人当たり国民所得で米国や日本をも抜いており、世界で最も豊かな国の一つとなっている。