2014年8月4日月曜日

医療手段を使い分けて支援する

この他にも経験はあるが、これらの例が示すように、私は自分自身の自然治癒力のお蔭で、何とか今まで生きてきたわけである。私は、元来、医療というものは、病人の持つ自然治癒力がその力を発揮できるように、医療手段を使い分けて支援するのが、その基本的目的であると信じている。しかし、当時の医療では、私の自然治癒力を助けることすらできなかったのである。それゆえに、私は、医療というのはまだまだ未熟で、限界をもっており、今後ますます研究と経験を重ねて進歩させていかなければならないものであると思っている。

さて、私の実際の経験を見ていただいたところで、医療の不確かさ、限界ということについて、もう少し考えてみよう。近年、先端技術を取り入れた診断機器や診断技術の開発進歩は躍進的であり、診断面では基礎理論の臨床への応用はめざましい。しかし、遺伝子治療を可能にした基礎的遺伝医学理論のような、治療目的に応用可能な医学的理論がどれほどあるであろうか。

また、たとえ医学的理論が学問的には正確であっても、その理論が臨床の場で患者の医療として応用された時には、治療の対象となる患者の側に、アレルギー性体質をはじめ個体差の強い体質や遺伝的な形質があったり、その時々の気分にも左右されがちな生きた患者の生身の身体が対象であるだけに、その医学理論の臨床的効果の再現性は、理論的な期待にそうものとはいえないのが実情である。

患者の生身の身体は、厳密に言えば一卵性双生児ですら別々の個体であって、完全に同一の身体というものは存在しない。また同一人でも、昨日と今日とでは身体的条件は異なり、その上、神経系や内分泌系の機能の変化によっても身体的反応は顕著に異なることもよく知られたことである。同一の医学的理論を応用しても、その理論の反応体である身体の肉体的精神的な条件が異なれば、完全な再現性など期待できるはずのないことは明らかなのである。