2012年5月11日金曜日

アフリカ大陸の周期的な干ばつ被害

地球儀を回転させながら、このベルトをなぞってみる。その最大のものは、アフリカ大陸のサハラ砂漠の南側に連なる「サヘル地方」であろう。西アフリカ沖の大西洋に浮かぶ島国のカボベルデから、モーリタニア、セネガル、マリ、ニジェール、チャドを通って、スーダンに至る乾燥地帯である。そして、東アフリカのエチオピア、ソマリア、ケニア、タンザエアにかけての「東アフリカ高地」へとつながっていく。

アジア大陸に目を転じると、パキスタンからインド北西部を通過してバングラデシュに到る一帯。さらに、インド北部からネパールのヒマラヤ山麓へと続く。東南アジアでは、タイ北東部からマレーシア、インドネシアのボルネオ島、フィリピンへと弧状に伸びる。中南米では、メキシコから中米を通り、カリブ海を経てコロンビア、ペルー、ボリビアなどのアンデス山脈の一帯である。いずれも、慢性的な貧困ベルトであり、飢餓地帯であり、そして災害の多発に悩まされるI帯である。このベルトをよく調べると、四つに大別することができる。
  1. 乾燥地帯・・・サヘル地方がその典型だが、インド北西部のタール砂漠周辺、アンデス地方の太平洋岸も乾燥地帯である。
  2. 高地の山麓地帯・・・エチオピアに代表される「東アフリカ高地」、それにヒマラヤ山麓、アンデス山中が該当する。
  3. 熱帯林地帯・・・西アフリカのギュア湾沿い、東南アジア、アンデス山脈東側のアマゾン、カリブ海一帯など。
  4. 沿岸の湿地帯・・・西アフリカ、バングラデシュ、タイヤマレーシアなどの東南アジア、カリブ海などの海岸ぎわのマングローブ林に代表される熱帯の海岸地帯。
乾燥地帯で起きているのは、砂漠化や土壌の侵食であり、干ばつの頻発である。高地では地滑りや洪水、熱帯林では土壌侵食や気候の乾燥化、そして沿岸湿地帯では海岸線の侵食、内陸部の塩害などだ。その詳細は、検証するが、ここではサヘル地方で何が進行しているのかを見てみたい。

今世紀に入って、アフリカ大陸はほぼ10年に一度の割で、干ばつに襲われてきた。その中で、初めて国際社会の関心を集めたのは、1968年~73年の干ばつであった。サハラ砂漠の南側に連なる乾燥地帯で、2500万人が被災、10万~20万人と推定される餓死者を出した。同時期、エチオピアでも20万を超える人が飢え死にしていた。そして、1982~85年の最近の干ばつは、3500万人が餓死線上をさ迷い、300万人以上が死んだと推定されるほど悲惨なものになった。いずれも、サヘル地方からエチオピアにかけて被害が集中した。

この飢餓の模様は、情報化社会の真っただ中で起こり、テレビや新聞によって世界中に報道されたこともあって、大きな関心を集め、多くの国際機関や研究者によって、干ばつの原因やこれだけ被害の広がった理由が模索されてきた。以前までは、異常気象による雨不足が深刻な干ばつを招いたとされてきた。だが、過去に周期的に干ばつが襲ってきているのにも関わらず、最近の千ばつほどの被害はなかった。そのため変わってきたのは、気象だけではなく、干ばつを受け止めてきた自然や人間の側ではないか、とする議論が活発になってきた。

生態系の崩壊ベルト

1960年代から70年代にかけて、世界的に環境保護運動が広がっていったときに、こんな暗い終末論が繰り返し語られた。「人口と消費の爆発的増加で資源は枯渇し、自然は荒廃して人間も生きていけなくなる」。だがそれは、「いつか起きるに違いない」未来の話であった。そして、こんな危機感も、いつの間にかすっかり薄らいだものになってしまっていた。

しかし、人口の増加も資源の浪費も自然の荒廃も、収まったどころか、ますます規模が大きくなり、速度を上げている。各地を回っていると、大袈裟と思えたあの終末論が、地球のあちこちで現実のものになっているのを肌で感じる。自然の荒廃が極みに達して、人間の生存を拒否し始めている地帯が次第に拡大しているのだ。

仮に、そのような地帯を「生態系の崩壊ベルト」と呼ぶなら、このベルト上のどこを歩いても、森林の破壊、砂漠化、水や薪の枯渇、災害の激増に苦しめられ、最終的には飢餓や災害によっていのちを失うか、もしくは住みなれた村を逃げ出して流浪の生活に身を落としてしまう地元民の姿を見ることができる。ただ、発展途上国の辺地で日常的に起きている飢餓や災害は、よほど大きな被害にならない限り、私たちの目や耳に届くことはまずない。このベルトで何か起きているのか。